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兄妹糸11

 麻は、希恵の閉じている膝を乗せている手と共に開き其処に腕を割り込ませると、希恵がパジャマ代わりに着ているトレーナーを行き成りたくし上げた。
「ぎゃ! ちょっと!」
「何? つか、服掴んでて」
 麻は、希恵の気などまるで無視。
希恵の胸の上までたくし上げたトレーナーを掴むように指示した。
希恵は、渋々その指示に従った。実際、恥ずかしいものの嫌な訳では、無かった。
 そして、希恵の顔が瞬く間に真っ赤になったのは、言うまでも無い。
 麻は、黙ったまま希恵の胸を観察している。
しかし、傍から見れば希恵が麻に胸を見せ付けているような光景だ。
 堪えられなくなった希恵は、麻に言い放った。
「っあー! もう! いつまで見てんの? つか、電気消して!」
「はあ? 電気消したら、観察出来ないじゃーん」
 恥ずかしがる希恵に、飄々とした態度で麻は答える。
「……っ何それ! じゃあ、小っちゃいのだけでいいから……お願いー!」
 希恵は、必死に麻に訴える。因みに、小さいのとは二燭光の事だ。
「めんど」
 そう言うと、麻はダルそうに座ったまま腕を伸ばし、電気の紐を掴もうとする。
だが、なかなか掴めない紐に苛立ちを感じ始めた。
仕方なく麻は渋々立ち上がり、紐を掴み何回か下に引くと辺りはオレンジ色の世界が拡がった。
「雰囲気出るー」
「何それー。出てないからっ。ははっ」
「はっ。そんな格好で言ってっと、うけるよ」
 麻は、嘲笑うように言う。
「あ!」
 希恵は、今自分がどんな格好をしているかをすっかり忘れていた。
「……っていうか、何で胸、観察すんの?」
 希恵の顔は、不審な物を見るような眼で麻に訊いた。
「んー、それは――」
 元の定位置に座りながら麻は続ける。
「胸ってちゃんと見たこと無いんだもん。いっつも唯ヤってるだけだし」
「はは、そうすか」
 希恵は、笑っているつもりだろうが眼が明らかに笑っていない。
この行為をしている時位は、“他の女”の話はして欲しくなかった。
「ねえ、もういいでしょ? かなり恥ずかしい」
 希恵の声に、苛立ちを感じる。いや、遣る瀬無さか。
「だーめ」
「……何で?」
「だって、触ってほしい。って思ってるでしょ?」
 図星を突かれた。
 ――もう、大分前に希恵の下腹部は熱を帯びていた。

兄妹糸10

「んじゃ、続き」
 そう言うと麻は、希恵の後頭部を右手で支え左手で希恵の肩を優しく掴むと、もう一度触れるだけのキスをした。
 希恵は、突然の事に眼を瞑ることなく麻を見つめていた。
そのキスから、再び深いものへ――。自然と閉じる希恵の瞼。
希恵の閉じている唇から口腔に忍び込む麻の舌先。
 麻の舌先が希恵の舌に、歯列に沿って触れていく。
その度に希恵の体は、ビクリと反応する。麻を感じ取っている証拠かもしれない。
「……ふっ、は……あ」
 息の仕方が分からない希恵は、必死にキスの間に空気を仰ぐ。
漸く離れる唇。未だ繋がる透明な糸。
希恵は、眼を逸らして服の袖で口を拭い、その糸を静かに切り離す。
 切り離したいのは、こんな糸じゃない。出来るなら――兄妹の糸。
 繋がっていたいのは、こんな糸じゃない。出来るなら――運命の赤い糸。
――誰の願い?
 希恵はやっと息ができる事で、ホッと吐息を漏らした。
しかし、これで終わる筈も無く、麻の唇から覗く舌が次に捕らえたのは希恵の耳。
静かに希恵の耳を舌先で優しくなぞる。
希恵は擽ったさと恥ずかしさで、顔を捩じらせ妙な息を漏らす。
耳が麻痺してしまうような、そんな感覚。
「……ふ、ふあっ……はっ、ちょっお兄、ちゃ」
 そんな希恵を麻は嘲笑うように一瞥して、自らの舌を下へ下へと這わせていく。
 口、耳、首筋。次の行き先は、希恵にも何となく予想がついた。
“其処”に近付く程、増す激しい鼓動。それが麻に気付かれてしまわないか、不安で仕方が無かった。
 希恵の首筋から、離される麻の口。次の行き先――それは。
 しかし、自分が想っている場所へ中々行き着かない事を希恵は不思議に想い、閉じていた眼をそっと開けた。
麻を見ると唯、何処か一点を見つめている。
「ど、うしたの?」
「……お前――」
 希恵を見ずにその一点を食い入るように見つめ答える麻の声は、嫌に真剣だった。
「え、何?」
 希恵も、そんな麻に合わせ緊張気味に、真剣に答える。
「ブラ、してないよな?」
「う、ん……?」
 希恵の頭に浮かび上がる、小さな疑問。
「すっげ、乳首勃ってる」
 希恵は拍子抜けし、麻に真剣に応対していた自分が馬鹿馬鹿しく想え、同時に恥ずかしさに駆られた。
「……はあ? 何、突然! 馬鹿! 変態!」
 希恵は、興奮と恥ずかしさで顔を真っ赤にして怒った。
「ん、まあね。でも俺は、オープンだけど希恵実はむっつりだし。むっつりの方が変態っぽくね?」
「……」
希恵は悔しいながらも麻の見解に納得し、言い返す言葉が一向に見つからない。
「でも、むっつりでもないか。どっちだろ。ね、希恵?」
 希恵は、悔しそうに顔を紅潮させたまま唇を噛み締めた。
今にも泣きだしてしまいそうだ。
「希恵って、楽しいよね」
 ケラケラと笑って希恵の頭を軽く叩きながら麻は言った。

兄妹糸9

「……え? 何で……?」
 戸惑った様子で答える希恵。
「ん、まあいいから。で、どうなの?」
「……キスは、初めてじゃない……けど」
「けど?」
「2回目のは、……初めて」
 希恵は、伏せ眼がちにぼそぼそと答えた。
麻が今、どんな表情をしているかなど希恵は知る由も無い。
「ふーん。キスした事あんだー。おもしれえ」
「はっ? 何で! あたしだってあるもんっ」
 馬鹿にする麻に、向きになって答える希恵。
「ははっ、何でそんな向きになんのー? うけるからっ」
「うけないからっ」
「ま、当たり前か。俺の妹だし。ははっ」
 一々向きになる希恵が、麻にとっては面白くて仕方が無い。
「まーとりあえず俺が最初じゃなくて良かったー」
「……何で?」
 希恵は麻を睨みながら怪訝そうに問う。
「え? だって、俺が初ちゅーとか笑えない冗談でしょ。俺、お前の兄貴な訳だし。兄妹同士でこんな事する時点でおかしいっつーのに、始めてだったら、まじやば」
 何も言わない希恵に、麻が同意を求める様にもう一言付けたした。
「なあ、そう思わね?」
「……うん」
 希恵は不本意ながらも仕方なくそう答えた。
「つー事で、キスが初めてじゃないなら、Dキス初めてでもいっかー」
 その後も続ける麻の言葉など希恵には全く聞こえず、麻の独り言となって終わった。 
希恵は段々、段々自分の身体の熱が、火照りが、引いていくのが分かった。
相変わらず続く、麻の独り言。
「でもさー、妹とキスとか気持ちわりー。って思ってたけど、案外そんなんでもないね。ははっ」
 笑って言えてしまう程、麻にとって何気ない、一言。
希恵は妹である事に、つくづく嫌気が差した。

 ――身体の残りの熱、全てがシーツに吸い込まれていった。

同時に、今まで感じなかった寒さを感じ、体を震わせる希恵。
麻はそれに気付き、心配そうに希恵の身体を摩る。
「希恵? 寒いか? 寒いよなー。何しろ、11月だもんな。しかも、風呂上がったばっかだし。……湯冷めすると、な。お前一応受験生だし。今、エアコン入れるな」

「一応って……」
「は? 何?」
「ううん。何でも無い」
 辺りを見回して、ミニテーブルに置いてあったリモコンに身体を乗り出し手に取ると、電源を入れ温度を設定した。
 麻が希恵の方を見ていないうちに、そっと希恵は微笑んだ。
 どれ程までに傷付いても、この麻の優しさが堪らなく愛しくさせる。

兄妹糸8

 麻が先に部屋に入り電気のスイッチを入れた。それに希恵が続く。
希恵は後ろ手でドアを閉めると、誰も入ってくる筈の無い部屋にさり気なく鍵をかけた。
希恵は麻が出す次の指示をドアの前に突っ立って待っている。
「んじゃ希恵ー、ベッドに座って」
「……うん」
 ぎくしゃくと、歩くのも一苦労だ。ドアからベッドまでの道のりが嫌に長く感じる。
緊張気味に、ちょこんと、そっとベッドに腰掛けた。
「あー、違う違う。もっと奥に座って」
「うん……?」
 ベッドの長い方のサイドは壁に押し付けてあり、隣にはカーテンが閉まっているが窓があった。
少々疑問を抱きながら、希恵は麻の指示に従った。
壁に寄り掛かり、膝を立て両手は脇に置いて座った。
そうすると、麻も希恵と向かい合わせに方膝を立てベッドに座った。
 麻は、恥ずかしがっている希恵の顔をニヤニヤとした表情で覘く。
視線を感じ、希恵は紅潮させた顔を麻に見られないようにと顔を余計に伏せた。
そんな希恵に馬鹿にしたように問う。それも、笑いながら。
「希恵ー? どうしちゃったのー? さっきから、下向いてばっかで」
「……」
「いっつも、ベラベラ喋るのに――なあ?」
「……」
 何故、こうも麻は希恵を甚振るのだろうか。楽しいからなのだろうが。
「んじゃあさ、声。出させてやるよ」
 意味が分からなかった希恵は、麻を見上げた。
その瞬間、麻は顔を希恵の顔に近づけ軽く唇を触れさせた。
離れると同時に、小さく音がした。
 益々高潮する希恵の頬。
しかし恥ずかしがる暇も無く、麻の赤はもう一度希恵の赤に触れた。
 一度目とは違い、深く忍び込むキス。
静かに、しかし確かに希恵の口腔に侵入して行く麻の舌。
 部屋に木霊する水音。
「……んっ」
 思わず希恵は声を漏らした。
その触れ合いは、希恵の上げた一声が終止符を打った。
「声。出たね」
 わざとらしく、爽やかな笑顔を希恵に向けて言う麻。
希恵は、キスの余韻を味わう暇も無く、顔を赤くした。
「なあ、初めて。とか、言わないよな……?」
 不意に麻が希恵に発した台詞。
いつもの馬鹿にしている表情でも無く、困ったような表情でも無く、何とも言えぬ顔で希恵に――問う。

兄妹糸7

 麻の妙に優しい口調に、希恵の胸が強く波打った。
麻はキッチンへ向かい、結局手を付けなかったアイスを冷凍庫に戻した。
そのまま、リビングのドアに向かいドアを開けて希恵の方に振り向いた。
「……おい。希恵? 行かないの?」
 ソファに座って、俯いたままの希恵に麻が声を掛けた。
「っうん、行くけど……アイス」
 希恵は未だに、自分の身に起きている事全てを理解出来ず、残っているアイスのせいにして頭で必死に理解しようとした。
「は? いいじゃん、んなの。テーブルに置いとけば? 後、電気消してきて」
 そういうと、麻は先にリビングを出て行ってしまった。
「……うん、分かった」
 希恵はゆっくりと立ち上がり、手に持っていたアイスを躊躇いがちにテーブルに置くと、ドアの横にある電気を消そうと歩き出した。
スイッチを押すと、弾くような音を立ててリビングの明かりが一瞬にして消えた。
希恵がリビングを出て廊下を歩き始めた時、2階に上がろうと階段に足を掛けた麻が何かを思い出して言った。
「あっ、希恵。エアコンも」
 そこまでしっかりしているというのに、何故残したアイスの心配はしないのだろうか。
「あっ、うんっ」
 駆け足でリビングに戻りながら、希恵はやっと今の状況を理解した。
それからは、期待に胸を膨らませ何度も、嘘、嘘、とうわ言の様に繰り返した。
リビングの前に着くとドアを開け、上半身だけをリビングに入り込ませた。
電気をもう一度点け、電気と同様ドアの横にあるエアコンの電源を消し、再び電気を消すとリビングを後にした。 

 ――置き去りになったアイス。暗闇に姿が静かに溶けた。

 先程とは別人のように、希恵はしっかりとした足取りで麻が待っている階段に向かった。
 ふと、麻の顔を窺うと苛立っている様だったが、麻が自分を見ているという事にまた一つ、希恵の胸が波打った。
「早く」
 急かす麻。焦る希恵。
 やっとの事で、希恵は麻の居る階段下に辿り着いた。
顔を紅潮させ、俯いてしまった希恵の腕を麻が引っ張り、階段を昇り始めた。
2階に着くと、希恵を連れた麻が何か考え事をしているようで、どちらの部屋に向かう訳でも無く、昇りきった所にあるフロアで立ち止まってしまった。
「……なあ、希恵。どっちの部屋がいい? 俺の部屋?」
 余裕の麻。一杯一杯の希恵。
 女が来るたびに微かに変わる麻の部屋の匂いが、希恵は堪らなく嫌だった。
「……やだ。あたしの部屋がいい」
「何で?」
「……何でも」
「どうしても?」
「うん」
 顔を顰め、頑なな希恵を見て麻が微笑して言った。
 麻は、希恵が自分の部屋が嫌な理由を知っていた。
前に、希恵が言っていたのだ。
『お兄ちゃんの部屋、いつも女の人の匂いがして嫌』
 判っていて、希恵に訊いた。
「おっけ、んじゃ行こ」
 
 ――残したアイスが静かに溶けた。

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