幾ら声がうるさくて、麻が好きだとしても、いつもなら我慢出来た。
そんな、希恵をここまで行動させた決定的な出来事が起きたのである。
それは、昨晩の事。
希恵は、風呂から上がり脱衣所で体を拭き下着に着替えようとしていた。
その時、脱衣所のドアが開いた。
運悪くその日に限って希恵は、脱衣所の鍵を閉め忘れていた。
間抜けな顔で入って来た麻と、希恵との間に妙な沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、麻が希恵の全裸を見て意外そうな顔をして放った一言。
「あっ、そっか。お前も女だったんだ」
そう言うと、麻の目的であった歯磨きをするために洗面所に向かい歯ブラシに歯磨き粉を付け、口に銜えると何事も無かったように脱衣所を出て行った。
最後に希恵の耳に届いたのは、麻が脱衣所のドアを閉める音。
希恵は、呆然として麻の一部始終を唯マネキンのように突っ立って見ているだけだった。体を隠す事も忘れて。
麻が出て行った後も暫く希恵は、驚きのあまり目を丸くして立ち尽していた。
はっ、と我に返った希恵は怒りと恥ずかしさでいっぱいになった。何よりも、女というよりも妹とさえも見ていない事が酷く悲しかった。
その後、物凄い勢いで麻に文句を言いに行ったが、平謝りで流されてしまった。
――というのが、昨日の晩の出来事。
そんな出来事を胸に希恵は今、麻の前に立っている。
「……勉強してたから」
希恵は、無愛想に先程に続きこう付け足した。
しかし、答えたのは麻ではなくベッドに居る女だった。
「あー、ごめんねえ。あたし声でかいからさあ」
何が可笑しかったのか、女は答えた後甲高い声で笑った。
やたらと伸ばす語尾に希恵は益々苛立ちを感じたが、相変わらず無愛想に、いえ、とだけ答えた。
希恵は、何故こんな女なのか。何故自分では駄目なのか。
何故自分は女とさえ妹という次元にさえ達していないのか。
何故――。
そう思うと、虚しくて堪らなかった。
希恵は、無意識に呟いていた。目の前に居る麻にさえも聞こえない声で。
「あたしにも、――してよ」
「は? 何か言った? 聞こえないって、もっかい言えよ」
「……何でも無い!」
そう言うと、希恵は乱暴にドアを閉め自分の部屋に駆け戻った。
「何怒ってんだろ」
と、不可解そうにベッド歩みながら麻は言った。
「希恵ちゃんて言うのー?可愛いねえ。希恵ちゃん、あたしに妬いてたりしてー」
「はっ、何だそれ」
笑いながら言う女に向かって麻は鼻で笑って答えると、いいからもう一回しよ。と言って女に覆い被さった。